吐き捨て

吐き捨て場。気が向いたらジェンダーとか発達障害とか読んだ本とかの話をします。

結局「女性エンジニア少ない問題の記事」って何が問題だったのか

自分は女性エンジニアになろうとしていましたが自分のぎじゅつりょくの低さを痛感したり社会への適応に関して挫折を味わったりしている割と詰んでる人間です。つらい。

「女性エンジニア少ない問題」を解決するために、機械学習で男性エンジニアを女性に変換する - ログミーTech(テック)

さて今更読みました。この描き起こし記事が誇張や重要部の省略を含んでいない前提でダラダラ書いて行こうと思います。

読んだ感想と炎上について

まず機械学習の方向性の一つとしては面白い試みだと思いました。

もしかしたら今盛り上がって少し落ち着いたかな?といった具合のvtuber界隈やVRchatとかで注目されるかもしれない。社会に適合できないコミュ障ダメウーマンとしてコミュニケーションの最適化といった研究方向としても面白いものです。上司の指示とか機械学習AIによる変換を通したら箇条書きにして期限付きの連想配列で渡してくれないかなとか夢を見たりもします。こちらの意見を相手を刺激しない形で伝えてくれる変換機能とかもいつか実現してほしい。

 ただその一方で広大なインターネッツに公開するには「課題」として定義された部分があまりにも単純化されすぎていて、これは火中の栗を拾うようなものだとも思いました。

まず炎上の下地としては2点、この記事が開発者ではない人間も読めるプラットフォームになっている事と、発表者の発表内容を「社会的にはどう読めるか」という視点からレビューする人間がいなかった事とが挙げられるように思います。(6/27 追記 実はY社にはレビュアーいるみたいな噂を聞きました。間違ってたらすみません。)

そして火種と呼ぶべき部分はこの発表において多分核心ではない部分でしょう。

キャッチーな発表に仕上げるためかはたまた尺の都合か分かりませんが、課題を解決すべき理由として「女性がいないと男性のやる気が出ない」「女性は女子トークが出来ない問題がある」と非常に限定的なものを内容として選び、「女性」「男性」と大きくて燃えやすいラベルをくっつけてしまったのが火種の部分だったと思います。

この発表は誰向けなのか?

この記事の元になった発表は「30歳以下のエンジニアによる30歳以下のエンジニアのための技術カンファレンスである」イベントで発表されたものだそうです。

つまりこの発表内容のターゲットは「30歳以下のエンジニア」であって、日々インターネッツで激論を交わしているジェンダー界隈の先生方とかフェミニストの先生方やアンチフェミの先生方とかではなく、(おそらくは)「そういう研究もあるのか~」と思う人間だったわけです。

ところがこの記事はログインとかしなくても誰でも見れますね(2018/6/25 23:55現在)。炎上の下地としてここが重要です。

社名と所属出して講演してるのにレビュアーとかいなかったのか?

ついでに社名を出して講演しているという部分も炎上の下地になっているような気がします。まあ有数の大企業ですよね。めちゃくちゃに有名企業です。そこの「データプラットフォーム部」なる部署にいらっしゃる方の発表ということですがレビュアーはいなかったのかなというのを考えてみます。ただもうまとめるとこういう参加者無料のイベントでの発表にいちいち社内のからレビュアーをつける訳にもいかないだろうと思います。プレスリリースならいざ知らず、無料イベントで自前で機械学習やってる人の研究発表にそんなリソース割かないでしょう。日本語圏じゃなかったらどうかは知りませんが。

巷には「大企業のデータを扱う人間がそんなんでいいのか?」という研究倫理どうなん的な批判を見かけます。しかし序文で本人がちらっと触れているように「データ解析の基盤づくりの部署」「今はまったくデータ解析はできない」そうなのでこの筋は的外れかなと思います。無論その倫理は研究者には必要不可欠なものですが、発表者がデータ解析や分析で食ってる人でも社会学者でもないということを念頭に置く必要があります。

女性エンジニアが少ないのは何が問題なのか

さてこの記事が誰でも読める状態で、世間の与太話やニュースまとめと同じように広く人々に読まれたということを踏まえつつ、この記事を日本語の読み物として読むなら何が問題だったのだろうかという点について考えます。

課題として出てきた「女性エンジニアが少ない問題」とは何が問題なのか、そこの説明があまりにも主語が大きく、単純化されすぎていたために燃えたのだろうと推測されます。

「業界を志望している母数から男女比統計を取って男性に対して女性だけ明らかに採用数が少ない、これは雇用機会に不平等がある、だから問題なのだ」とかそういう論点から行けば燃えなかっただろうなとも思います。「個人的には女性がいるとやる気が出るのでこういう女性を想定して振る舞いをエミュレートしてみる方向で研究してみました!でも将来的にはこういうバリエーションも考えているよ!」というエクスキューズが挟まれるべきであったのかもしれないとも。

 「業界に女性が少ない問題」って言ってみればフワフワしたでっかい問題提起で、課題として挙げるならその業種に志望する人間の母数男女比と志願者の何らかの成績をサンプリングして女性だけ(あるいは今回触れませんが逆もテーマとして十分に考え得るものでしょう)身体の性別あるいはジェンダーのみを理由に落とされまくってるのが明らかだ!とか説明して見せる必要があるんじゃないかなと思います。育成にコストが掛かるという部分の説明は丁寧なのにそこが端折られたように読めてしまうのが本当に手痛い部分だったなと。

 ただあくまで推測ですが多分発表した方は「そこが核心ではないんだ!!!」とお思いかなとも、動機は置いといて研究成果を見てほしいだろうなとも思います。

しかしながら誰にでも読める状態の書き起こし記事となると「この発表は誰を対象にしたものか」「これは研究成果を見てほしい記事です」と読み手をコントロールすることは難しく、特に「女性をラベルとして扱った」という部分ばかり先行します。コミュニケーションは受け手側の解釈が最終的な結果だとはよく言ったものです。

結果としてめっちゃ燃えましたね。恥ずかしながら私も最初序文を見落として読んで実にヒリヒリしました。女子トークって何なんよとか思いましたね。多分世が世なら半年ROMれと言われても仕方ないでしょう。

個人的な総括

最初書き起こし記事を読んだときジェンダーにヒリつく自分と技術の話面白いなと思う自分とで割と混乱を起こしました。技術としては面白い、でも社会的にはこの動機は削除するかエクスキューズをつけたほうが幾分穏当な記事になるだろう。そういう乖離した感想を持ちました。

こういうイベントとか行く気力無いクソコミュ障ヘタレだけど興味ある人間(エンジニアとは言い張れない)にとっては書き起こし記事は非常に有り難いし、こういう会社の利益にもならなさそうな技術系のイベントで発表内容にいちいちレビュアーつけんの?そのコストどっから絞り出せるん?誰がやんの?って観点からもこの衝突を未然に防ぐのはそう容易ではなかったでしょう。

一方で社名を背負ったプロモで「女性」をラベリングに使って炎上した話、枚挙に暇がありません。午後ティー女子の大炎上からまだ2カ月くらい?だったと思います。

そういう意味では「発表時点のターゲットと記事を閲覧できる人間の層の違い」「エンジニアと非エンジニアの違い」「ジェンダーを人間のラベルとして扱うことのセンシティブさ(或いは時代錯誤感と言った方が正しいのだろうか)」の絡み合った興味ぶかい事件だったように思います。

この炎上の原因をエンジニア(ひいては社会の)のジェンダー教育の不備に求めるか、エンジニアと非エンジニアの技術発表に対する姿勢の違いに求めるか、どちらか一方だけが責められるべきだとは言えないように思います。

本当はそこまで学習してエンジニア向け内容と非エンジニア向け内容を分けて書き起こしするなり査読に近い事やって内容アクセプトなりリジェクトなりしてくれるAIが出てくれるのが理想っちゃ理想だと思いますが、何年待てばいいんでしょうね。

 

6/27追記 今更の今更なんですがわざわざ私が書かなくても以下のリンク先に素晴らしく丁寧にまとめてありました。特定のジェンダーの人間が特定の業種に少ないのって結局何が問題なのかもキッチリ述べてあっていいなと思います。車輪ですらないものを再発明してしまった。

 

Latest topics > 女性エンジニア少ない問題を解決する話、の何が問題なのか - outsider reflex